大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(ネ)5062号 判決 2000年7月27日

控訴人 東京機工株式会社

右代表者清算人 保昇

右訴訟代理人弁護士 宮城和博

被控訴人 国民生活金融公庫 (旧名称 国民金融公庫)

右代表者総裁 尾崎護

右訴訟代理人 田中賢一

右訴訟代理人弁護士 桑原収

同 小山晴樹

同 渡辺実

同 堀内幸夫

同 青山正喜

被控訴人 株式会社セントラルファイナンス

右代表者代表取締役 前川哲郎

右訴訟代理人弁護士 松嶋泰

同 寺澤正孝

同 相場中行

同 竹澤大格

同 鈴木雅之

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人と被控訴人国民生活金融公庫との間で、控訴人が原判決添付の別紙物件目録(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」一記載のとおり訂正したもの)(一)ないし(一一)、(一三)ないし(一六)記載の各土地(ただし、(一)の二一及び二二、(二)の四及び九、(三)の一一、(四)の二六、(六)の六、(七)の一並びに(一五)の一記載の各土地を除く。)につき所有権を有することを確認する。

三  被控訴人国民生活金融公庫は、控訴人に対し、原判決添付の別紙登記目録(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」二記載のとおり付加、訂正したもの)一及び二記載の各所有権移転登記の抹消登記手続を承諾せよ。

四  控訴人と被控訴人株式会社セントラルファイナンスとの間で、控訴人が原判決添付の別紙物件目録(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」一記載のとおり訂正したもの)(一)ないし(一一)、(一三)ないし(一六)記載の各土地につき所有権を有することを確認する。

五  被控訴人株式会社セントラルファイナンスは、控訴人に対し、原判決添付の別紙登記目録(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」二記載のとおり付加、訂正したもの)一及び三記載の各所有権移転登記の抹消登記手続を承諾せよ。

六  訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨

なお、控訴人は、当審において、(1)被控訴人国民生活金融公庫(以下「被控訴人公庫」という。)との間で、①原判決添付の別紙物件目録(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」一記載のとおり訂正したもの以下「物件目録」という。)(一)の二一及び二二、(二)の四及び九、(三)の一一、(四)の二六、(六)の六、(七)の一並びに(一五)の一記載の各土地についての所有権確認の訴え、②物件目録(二)の四記載の土地につき大分地方法務局平成六年一二月一二日受付第二四六七六号及び第二四六八六号をもってされた各所有権移転登記並びに物件目録(三)の一一記載の土地につき同法務局平成七年一月一七日受付第七六一号及び第七七二号をもってされた各所有権移転登記の抹消登記手続承諾請求にかかる訴えを、(2)被控訴人株式会社セントラルファイナンス(以下「被控訴人セントラル」という。)との間で、物件目録(一二)記載の土地についての所有権確認の訴えをそれぞれ取り下げた。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  請求原因

1  原判決添付の別表(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」三記載のとおり訂正したもの 以下「別表」という。)の「旧名義人」欄記載の者は、それぞれ別表の「年月日」欄記載のころ、別表の「本件各土地」欄記載の土地に対応する物件目録(一)ないし(一六)記載の各土地を所有していた。

2  控訴人は、別表の「年月日」欄記載のころ、旧名義人からそれぞれ相当の価額で本件各土地を買い受けた。

3  物件目録(一二)記載の土地を除く本件各土地につき、太田又弘への原判決添付の別紙登記目録(ただし、別紙「原判決目録等訂正表」二記載のとおり付加、訂正したもの以下「登記目録」という。)一の1及び2、三の1及び2記載の各所有権移転登記(登記原因 真正な登記名義の回復)並びに別表の右各土地に対応する「現名義人」欄記載の者への登記目録一の3ないし30、三の3ないし10記載の各所有権移転登記(登記原因 贈与)が、それぞれされている。

物件目録(一二)記載の土地につき、別表の同土地に対応する「現名義人」欄記載の伏見洋子への登記目録二記載の所有権移転登記(登記原因 贈与)がされている。

4  物件目録(一)の二一及び二二、(二)の四及び九、(三)の一一、(四)の二六、(六)の六、(七)の一並びに(一五)の一記載の土地を除く本件各土地(以下「本件公庫関係土地」という。)につき、被控訴人公庫の処分禁止仮処分の登記がされている。

5  物件目録(一二)記載の土地を除く本件各土地(以下「本件セントラル関係土地」という。)につき、被控訴人セントラルの処分禁止仮処分の登記がされている。

6  被控訴人公庫は、本件公庫関係土地(ただし、物件目録(一二)記載の土地を除く。)が又弘の所有であると主張し、被控訴人セントラルは、本件セントラル関係土地が又弘の所有であると主張して、それぞれ右各土地にかかる控訴人の所有権を争っている。

7  よって、控訴人は、①被控訴人公庫との間で、本件公庫関係土地(ただし、物件目録(一二)記載の土地を除く。)につき控訴人が所有権を有することの確認並びに本件公庫関係土地についてされた登記目録一及び二記載の各所有権移転登記の抹消登記手続の承諾を求め、②被控訴人セントラルとの間で、本件セントラル関係土地につき控訴人が所有権を有することの確認並びに本件セントラル関係土地についてされた登記目録一及び三記載の各所有権移転登記の抹消登記手続の承諾を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は否認する。

本件各土地は、控訴人の代表者であった又弘個人が、控訴人主張のころ、旧名義人から売買により取得したものである。

3  同3ないし6は認める。

三  抗弁

1  代物弁済による所有権の喪失

又弘が控訴人のために担保として提供していた不動産が平成五年ころ競売され(浦和地方裁判所平成五年(ケ)第一四八号、同第六五一号)、その結果、又弘は、控訴人に対し、一億四九五〇万七九五六円の求償債権を取得した。

控訴人は、平成六年ないし平成七年ころ、又弘との間で、控訴人の右求償債務の弁済に代えて、本件各土地の所有権を又弘に移転することを合意した。

2  不法原因給付による所有権の喪失

控訴人から又弘に対する本件各土地の所有権移転は、控訴人が又弘と通謀して強制執行を免れるためにした財産隠匿行為であり、不法原因給付に該当するから、控訴人は、本件各土地についてその所有権を主張することができない。

3  信義則違反、権利濫用

控訴人は、平成元年一月二五日に解散し、現在清算中である。そして、控訴人の資産は本件各土地だけであり、他方、控訴人の債権者は又弘だけである。したがって、本件各土地は又弘に対する債務の弁済に充てられるべきものであって、控訴人の本訴提起は実質的に意味がない。また、控訴人は、又弘が実質的に支配している法人であるから、本件各土地について控訴人の所有権が確認され、その登記名義が控訴人に回復されても、本件土地は、又弘によって恣意的に処分され、控訴人の財産の清算のために処分されることはない。このように、控訴人の請求は、控訴人の利益となるものではない上、又弘の債権者として現名義人に対する処分禁止の仮処分決定を得て又弘の財産を保全している被控訴人らの権利を不当に損うものであるから、信義則違反又は権利濫用として許されない。

4  仮定抗弁(民法九四条二項の類推適用)

(一) 虚偽の登記

控訴人から又弘及び伏見に対する本件各土地の所有権移転登記は、いずれも控訴人が又弘と通謀して強制執行を免れる目的であえて作出したものであって、実体上の権利関係を伴わないものである。

(二) 被控訴人らの善意の第三者性

(1) 被控訴人公庫は、本件公庫関係土地について控訴人から又弘及び伏見に対する所有権移転登記がされたころ、被控訴人セントラルは、本件セントラル関係土地について控訴人から又弘に対する所有権移転登記がされたころ、それぞれ又弘に対して相当額の金銭債権を有していた。

(2) 被控訴人公庫は、本件公庫関係土地についてされた控訴人から又弘及び伏見に対する所有権移転登記が、被控訴人セントラルは、本件セントラル関係土地についてされた控訴人から又弘に対する所有権移転登記が、いずれも実体上の権利関係に基づく登記であると信じた。

(3) 被控訴人公庫は、本件公庫関係土地についてされた現名義人に対する贈与は詐害行為に当たるとして、処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の決定(東京地方裁判所平成七年(ヨ)第一〇八三号(同年三月一〇日決定)、同裁判所同年(ヨ)第二三三二号(同年五月一七日決定)、浦和地方裁判所同年(ヨ)第二二二号(同年五月一八日決定))を得、右各決定に基づきその登記をした。

(4) 被控訴人セントラルは、本件セントラル関係土地についてされた現名義人に対する贈与は詐害行為に当たるとして、処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の決定(浦和地方裁判所平成七年(ヨ)第三〇五号(同年六月一九日決定)、東京地方裁判所同年(ヨ)第三一七八号(同年七月三日決定))を得、右各決定に基づきその登記をした。

(5) 付言すると、被控訴人らは、本件各土地について、控訴人から又弘に対する所有権移転登記がされた日に、又弘から現名義人に対する(物件目録(一二)記載の土地については控訴人から伏見に対する)所有権移転登記がされたために、又弘に対する債権を回収する意図で、現名義人に対する処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の登記をしたから、実質的には強制執行に着手したもの、あるいはそれに準ずるものである。

また、民法九四条二項は、たとえ虚偽の外形を作出した権利者がその権利を失うことになり、かつ、その外形を信じた者の利害関係が間接的な利害関係であったとしても、その利害関係の程度が高く、これを保護することが正義に合致するときは、なお類推適用される。

(6) よって、被控訴人らは、控訴人から又弘に対する本件各土地の所有権の移転について法律上利害関係を有する善意の第三者に該当するから、控訴人は、その所有権が移転していないことを被控訴人らに対抗できない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は、被控訴人ら主張の不動産競売の手続がされたことは認め、その余の事実は否認する。

2  同2は争う。

3  同3は争う。

4  同4の(一)のうち、控訴人から又弘及び伏見に対する本件各土地の所有権移転登記が実体上の権利関係を伴わない虚偽のものであること並びに(二)の(3)、(4)は認める。(二)の(1)は知らない。その余の事実は否認する。

第三当裁判所の判断

一  控訴人の本件各土地の所有権の取得について

当事者間に争いのない請求原因1の事実と、《証拠省略》によれば、控訴人は、別表の「年月日」欄記載のころ、旧名義人からそれぞれ相当の価額で本件各土地を買い受けたことが認められる。

二  本件各土地に経由されている各登記について

①物件目録(一二)記載の土地を除く本件各土地について控訴人から又弘に対する所有権移転登記及び又弘から現名義人に対する所有権移転登記が、②物件目録(一二)記載の土地について控訴人から伏見に対する所有権移転登記が、③本件公庫関係土地について被控訴人公庫の処分禁止仮処分の登記が、④本件セントラル関係土地について被控訴人セントラルの処分禁止仮処分の登記が、それぞれ経由されていることは、当事者間に争いがない。

三  代物弁済による所有権の喪失(抗弁1)について

《証拠省略》によれば、又弘が控訴人のために担保として提供していた不動産が競売に付され、又弘が控訴人に対し相当額の求償債権を有していたことが認められるが、又弘と控訴人との間で、右又弘の控訴人に対する求償債権の弁済に代えて本件各土地の所有権を譲渡する旨の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。

よって、代物弁済による控訴人の所有権喪失の抗弁は理由がない。

四  不法原因給付による所有権の喪失(抗弁2)について

《証拠省略》によれば、物件目録(一二)記載の土地を除く本件各土地についてされている控訴人から又弘に対する所有権移転登記及び物件目録(一二)記載の土地についてされている控訴人から伏見に対する所有権移転登記は、右各登記がされた当時の控訴人の代表者であった又弘が、その後控訴人の清算人となった藤田政明から、本件各土地が控訴人と同じ商号の別会社(昭和五八年五月に東京都足立区関原において設立され、控訴人の営業の譲渡を受けた「東京機工株式会社」)の所有にかかる土地と誤認されて差押えを受けるおそれがあるから一時的に名義を変えておいた方がよいなどと言われたことから、右藤田に対して、自己の住所氏名のほか、名義を戻す際に問題を起こすおそれのない又弘の親族の住所、氏名を教え、控訴人の社判や清算人印、又弘の実印等を交付して経由した仮装の登記であること、伏見は、物件目録(一二)記載の土地についてされた自己名義の所有権移転登記の経由に全く関与していないことが認められる。

右認定事実によれば、物件目録(一二)記載の土地を除く本件各土地の権利の移転(真正な登記名義の回復)及び物件目録(一二)記載の土地の権利の移転(贈与)は、強制執行を免れる意思の下にされたもの、換言すると、実体上の権利関係を伴わない仮装のものであり、又弘は後日控訴人にその登記名義を戻すことを前提としていたと推認できる。そうすると、これを不法原因給付として返還できないものとすると、かえって当事者の意思に反することになるだけでなく、一面において仮装上の譲受人(又弘及び伏見)にいわれのない利得をさせ、他面において控訴人の債権者が本件各土地に対して強制執行をすることができず、右債権者を害する結果となるから、右各仮装の権利移転は不法原因給付に当たらないというべきである(最高裁昭和四一年七月二八日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一二六五頁参照)。

よって、不法原因給付による控訴人の所有権喪失の抗弁も理由がない。

五  信義則違反、権利濫用(抗弁3)について

《証拠省略》によれば、控訴人の請求は、又弘が控訴人の清算人であった時にされた仮装の控訴人から又弘及び伏見に対する所有権移転登記並びに又弘から現名義人に対する所有権移転登記を抹消し、本件各土地の権利と登記名義を一致させるためのものであると認められ、控訴人の請求に関して信義則違反、権利濫用に当たる事実を認めるに足りる証拠はない。

六  民法九四条二項類推適用(抗弁4)について

1  前記四の認定のとおり、物件目録(一二)記載の土地を除く本件各土地についてされている控訴人から又弘に対する所有権移転登記及び物件目録(一二)記載の土地についてされている控訴人から伏見に対する所有権移転登記は、控訴人及び又弘ともに所有権を移転する意思がないのに登記名義人を又弘又は伏見とする仮装の登記である。

2  当事者間に争いのない請求原因4、5の事実及び《証拠省略》によれば、 ①被控訴人らはそれぞれ、本件各土地について控訴人から又弘及び伏見に対する所有権移転登記がされた当時、又弘に対し、相当額の貸金債権又は求償金債権を有していたこと、②被控訴人公庫は、同被控訴人の又弘に対する右債権を保全するため、本件公庫関係土地についてされた又弘から現名義人に対する贈与が詐害行為に当たるとして、処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の決定を得て、その登記をしたこと、③被控訴人セントラルは、同被控訴人の又弘に対する右債権を保全するため、本件セントラル関係土地についてされた又弘から現名義人に対する贈与が詐害行為に当たるとして、処分禁止の仮処分命令を申し立て、その旨の決定を得て、その登記をしたことが認められる。

3  右1及び2によれば、被控訴人らは又弘に対する一般債権者であり、本件各土地について控訴人から又弘に対する所有権の移転を前提として、被控訴人公庫は本件公庫関係土地につき、被控訴人セントラルは本件セントラル関係土地につき、それぞれ又弘から現名義人に対する贈与が詐害行為に当たるとして処分禁止の仮処分決定を得て、その登記をした者であることが認められる。

よって検討するに、不動産の所有者が、他人にその所有権を帰せしめる意思がないのに、自己の意思に基づき、当該不動産につき右他人の所有名義の登記を経由したときは、その承諾の有無を問わず、所有者は、民法九四条二項の類推適用により、登記名義人に右不動産の所有権が移転していないことをもって、善意の「第三者」に対抗することができない。しかして、民法九四条二項を類推適用する場合の当該「第三者」とは、虚偽の意思表示の当事者又は一般承継人以外のものであって、その表示の目的につき法律上の利害関係を有するに至ったものをいうと解すべきである(最高裁昭和四五年七月二四日第二小法廷判決・民集二四巻七号一一一六頁参照)。

これを本件についてみるに、被控訴人らは、さきに認定したように、又弘に対し貸金債権又は求償金債権を有する一般債権者にすぎず、それを越えて本件各土地を差し押さえたことないし差押えにつき配当要求をしたことを主張立証しないから、被控訴人らが本件各土地につき法律上の利害関係を有するということはできない。

確かに、被控訴人らは、さきに認定したように、又弘から現名義人に対する贈与が詐害行為に当たるとして、本件各土地につき現名義人を債務者とする処分禁止の仮処分決定を得て、その旨の登記を経由している。しかし、そもそも詐害行為取消権は、債権者の共同担保を保全するために、債務者の一般財産を減少させる行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものである(民法四二四条、四二五条参照)上、被控訴人らが、たとえ詐害行為取消権に基づく処分禁止の仮処分決定を得て、その旨の登記を経由したとしても、一般債権者の域を出るものではないから、被控訴人らは、未だ本件各土地につき法律上の利害関係を有するに至ったということはできない。

なお、被控訴人公庫は、控訴人が物件目録(一二)記載の土地について所有権を有することを争っておらず、また、同土地については、控訴人から伏見に対し直接所有権移転登記がされているのみであって、又弘への所有権移転ないしその旨の登記があることも、又弘から伏見への贈与ないしその旨の登記があることも認めることができないから、同土地について被控訴人公庫が法律上の利害関係を有するということはできない。

したがって、被控訴人らの民法九四条二項の類推適用の主張は、失当として排斥を免れない。

七  結語

以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由があるから、これを棄却した原判決を取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 佐藤武彦 青野洋士)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例